エネルギー代謝転写因子ネットワークによるホメオスタシスの研究

エネルギー代謝の変化は、日、月、年の時間をかけたバランスです。長期的な栄養代謝の場合、その制御を行うのは諸酵素の転写レベル(mRNAレベル)での調節が重要です。遺伝子の発現を調節するのが転写因子です。栄養バランスを音楽に例えるならば、各楽器の演奏者が各遺伝子でそれを全体で指揮している指揮者が転写因子といえます。エネルギー代謝(コレステロール、脂肪酸、糖代謝)の各楽団の指揮者のメンバーはある程度でそろってその概要はみえてきました。

脂質合成転写因子としての役割を確立したSREBPファミリー、脂肪酸異化を担うPPARα、酸化(オキシ)ステロールレセプターとしてコレステロールの異化(あるいは処理)を制御するLXRなどが中核をなしています。さらに脂肪細胞分化に関わるPPARγ、糖、脂質代謝両方の関連酵素の転写に関与しながら遺伝性糖尿病の原因遺伝子として注目されるHNFファミリー、糖新生酵素のインスリン制御に関わるフォークヘッドファミリーなどが糖インスリン代謝と脂質代謝両面の制御に絡んでいるようです。特にPPARγはチアゾリジン薬剤の標的、PPARαはフィブレート系の薬剤の標的で有名です。われわれはその研究に関して世界的に貢献していると自負しています。  

SREBP-1cプロモーター活性化因子のスクリーニングの過程で、我々はLXRというコレステロール代謝に関わる転写因子を見出しました。これは全く意外なことで、オキシステロール受容体としてコレステロールを細胞から排泄させる機能のあるLXRが脂肪酸合成転写因子を活性化することから、なんらかのコレステロール代謝と脂肪酸代謝の関連が予想されます。この二つの因子の相互作用をきっかけに、各々のエネルギー代謝転写因子が実はもろもろのクロストーク(相互作用)をしていることがわかってきました。LXRとSREBP-1cのように転写調節だったり、LXRとPPAR、SREBPとHNF-4αのように直接結合によるタンパクタンパク相互作用である場合もあります。相互に協調する場合も抑制する場合もあります。このようなネットワークが複雑なエネルギー代謝のホメオスタシス(恒常性の維持)に重要な働きを担っていると考えるようになりました。一つの研究対象の拡散と収束に加えて、他との関連も調べる必要性そして一つのシステムの研究に展開していくわけです。またその相互作用のバランスの破綻が生活習慣病の発症に関連があるのではないかと考えています。