研究内容

エネルギー代謝の分子機構の解明に向けて


我々は現在、糖尿病、高脂血症、肥満などの生活習慣病とその終末像である動脈硬化症の病態解明ならびに治療法の開発をゴールに、エネルギー代謝の分子機構の解明に向けての研究を展開しています。

生物は陸上に棲息するようになって以来、食物の確保すなわちエネルギーの保持が生存の鍵となった。飢餓の時代を経る過程の中でエネルギーの貯蓄に有利なように様々な倹約遺伝子を進化させてきた。しかし、現代社会になりヒトは、飽食、運動不足の時代を迎え、栄養バランスは急速にエネルギー過多に傾いていた。そうなると、かつてのヒーロー、倹約遺伝子群は、肥満、糖尿病、高脂血症などの病態を持続させ、動脈硬化症へと進展させる悪役となってしまった。(マウスなど動物でも摂取カロリーをセーブすると長生きすることが知られています)。過剰なカロリーが脂肪(トリグリセリド)の組織蓄積として肥満、糖や脂質が血中過剰に蓄積しているのが糖尿病や高脂血症となっているとみることもできます。ここで我々は糖代謝や脂質代謝をあまり区別して考えません。過剰な糖は脂肪に転換されます。細胞内での糖の分解と脂質の分解は同時には起こりにくいとされています。総カロリーよりもむしろ脂肪の過剰摂取が糖尿病の発症を増加させてきたと疫学的に考えられています。これらの事実は糖代謝と脂質代謝が深く関連しあっていることを示しています。そこで我々は、糖、脂質など栄養をエネルギーとして一括して捉えて、生体におけるエネルギー代謝の調節としてそのメカニズムを研究しています。

さてエネルギー過多がどのようにこのような諸危険因子を形成するのでしょうか? 

エネルギーバランスが余剰にかたむいた結果、エネルギー代謝の調節機構が破綻して、エネルギー代謝に関連する遺伝子の発現異常をきたし、高脂血症、耐糖能異常、糖尿病、(少し遠いかもしれませんが、高血圧も関連するかもしれません)などの 動脈硬化症の危険因子を形成していくと考えています。動脈硬化症の危険因子:高脂血症(高コレステロール血症、好中性脂肪血症、低HDL血症)耐糖能異常、糖尿病、高血圧などは、持って生まれた遺伝的素因に加えて、後天的な生活習慣がその発症、悪化に深く関与しているため生活習慣病と社会的にも注目されている。しかしもその多くは、一人の患者さんに重積する傾向があるため、メタボリックシンドローム、Multiple Risk Factor Syndromeなどといわれ注目されています。そこにはインスリン抵抗性という病態が重要なのではないかと考えられています。

危険因子の多くは糖脂質代謝すなわちエネルギー代謝の病態です。生活習慣病として国民の意識にも浸透しつつあるこれら危険因子の重積は、エネルギーバランスの慢性的破綻が血中で糖、脂の異常に形を変えているとも言えます。日常臨床における血糖、高脂血症、肥満の治療はエネルギーバランスの個別的破綻処理であり、すべてのベースに食事、運動療法が重要となります。これらのメカニズムを分子レベルで知り、生活習慣病を管理することにより、動脈硬化症や血管合併症を予防したいと考えています。

研究のゴール


最近の研究面ではこのエネルギー代謝に関与する分子(レプチン、UCPファミリーなど)が次々とクローニングされてきました。栄養代謝の長期制御には各栄養代謝経路を担う酵素群に加え、これらエネルギー代謝関連遺伝子の発現を調節する転写因子が上流重要でその解明が進展している。フィブラート系薬剤やチアゾリジン系薬剤の開発はその標的タンパクである核受容体転写因子PPARファミリーの研究を進展させ、脂質の分解や肥満、インスリン抵抗性の理解に貢献した。私共が従来より研究しているSREBPファミリーは過剰な糖質を原料に脂質合成に変換する転写因子であることがわかってきました。

我々の研究のターゲットがエネルギー代謝の分子機構といいましたが、具体的に知りたいこと、明かそうとしていることは…

1.エネルギーバランスを生体や細胞はどのようにセンスしシグナル伝達するか? 
  わかりやすくいえば、
  食べ過ぎたときどうやって脂が貯まっていくかというそのメカニズムです。

2.エネルギー代謝の破綻により、
  どのような転写因子がどう動き、どんな遺伝子がどう変化するか?
  これは治療のターゲットを模索する重要な情報になります。
 
3.どの遺伝子をどう動かすと、
  生活習慣病の病態の説明や治療効果につながるかを探っていくことです。

入り口は細胞や動物にエネルギー(カロリー)の過剰(過食)あるいは枯渇(絶食、飢餓)状態にさせ、その両極端なエネルギー状態において、脂質糖関連の遺伝子発現の変化を探ります。その制御に関わりそうな転写因子や遺伝子を見出し、それをまた細胞や動物に導入したり、壊したりしてその機能をみて病態への関連や治療標的としの意義を探ります。具体的には、血中の糖、脂質、糖負荷試験、インスリンシグナルへの影響、インスリン分泌、脂肪細胞の分化、動脈硬化形成などを調べています。